海底に沈んだ鯨の遺骸の腐敗過程に形成される「鯨骨群集」と呼ばれる特殊な生態系・生物群集があります.
今回,ジェンキンズ助教らの研究グループが北海道むかわ市の穂別地域から産出した千数百万年前(中新世)の鯨骨群集を発見し,日本古生物学会発行の英文誌「Paleontological Research」に論文が出版されました.
鯨骨の化石にAdipicolaという珍しい二枚貝が多数付着していました.Adipicolaは,現在の海洋でも鯨骨に付着し,腐敗で生じた硫化水素をエネルギー源としています.
今回の化石鯨骨に付着していたAdipicolaも現在と同じように,鯨骨から生じた硫化水素をエネルギー源とした鯨骨化石群集を形成していたものと考えられます.
鯨骨群集の化石が発見されることは珍しく,日本では1992年に第1号が発見されていますが,今回の報告でようやく4例目となります.
Adipicolaが密集するタイプの化石鯨骨群集は,イタリアや北海道初山別地域(日本海側)から見つかっておりましたが,北西太平洋側では発見されていませんでした.
今回の発見で,中新世においてAdipicola密集型の化石鯨骨群集が凡世界的に分布していることが確かめられました.
鯨類遺骸の腐敗環境は,深海の極限環境(熱水や冷水)への動物進出過程で進化的に重要な役割を果だしたとの仮説があり,化石記録の充実によってその仮説が検証されていくことが期待されています.
雑誌名: Paleontological Research, 22(2):105-111. 2018 (日本古生物学会の英文誌)
論文名: A new Miocene whale-fall community dominated by bathymodiolin mussel Adipicola from Hobetsu area, Hokkaido, Japan.
発表者名: Jenkins, R. G., Kaim, A., Amano, K., Sakurai, K. and Matsubara, K.
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